
米国は竜巻の本場と言われており、毎年、特に中部及び南部で多数の竜巻が発生し、多数の死傷者が生じています。在留邦人の皆様の中にも米国の竜巻についてご関心がある方が多いと考え、竜巻についてとりまとめましたので、ここに紹介します。
<注意事項>
1.避難の仕方
(1)建物・家屋の中
避難用の地下室に入り込めばほぼ安全である。避難用の地下室がない場合は、家の中心部など建物の中で構造的に強いところ(柱の本数が多いトイレや建物の角)を選んで身を置き、竜巻の通過を待つ。構造上、丈夫な家具があれば、その側に身を置くことも一案である。窓の側は絶対に避ける。また、窓は開けてはならない。
(2)自動車
自動車の中にとどまることは安全でない。自動車から出て地面のくぼみを探し、身を伏せ、竜巻の通過を待つ。陸橋の下は風が集中し強まることがあるので避けるべきである。
(3)屋外
直ちに頑丈な建物内に避難する。その暇がない場合には、道路より低いくぼみを探し、身を伏せ、竜巻の通過を待つ。川、池、山に近づかない。
2.避難訓練
毎年、トルネード・シーズンに入る前に避難訓練を行うことが勧められる。避難訓練を行っていたために死傷者が発生せず、難を逃れた事例が散見される。
3.竜巻予報
(1)竜巻はハリケーンと違い局地的に発生し、通常、その寿命も数分から数十分と短いが(ただし、極めて希に1時間以上の寿命を持つ竜巻もある)、竜巻が発生する可能性があれば、テレビやラジオの天気予報の中で警報が出されるので注意して聴視することが必要である。
(2)竜巻の予報技術は進歩しており、竜巻の発生する地域やその規模を予測できるようになっているが、竜巻が局地的にどこで発生し、どのように進むかなどは、直前の予報による。
(3)「ウェザー・ラジオ」が市内の電気店で30ドルから50ドル位で市販されており、常時、スイッチを入れておくことにより、竜巻の警報が発せられたときにはラジオからも警報が鳴り、竜巻の発生を知ることができるので、各家庭やオフィスに1台備えておくことが勧められる。
<参考情報>
1.竜巻の多い国
竜巻は世界各地でみられる自然現象で、特に米国、インド、英国、オーストラリアで多く発生する。これらの国では、英国を除き、大陸性気候の影響により、空気中の上層と下層の間で気温の較差が大きくなりやすく、このことが竜巻の発生する基本条件の一つとなっている。なお、英国で竜巻が多いのは、特殊な風の動きのためである。
米国海洋気象庁(NOAA)によれば、米国では、年間約1,000件の竜巻が記録されており(2011年は約1,900件と例年以上を記録した)、これに加え小型でかなり局地的な竜巻が数千件発生していると考えられている。米国では、これまで18人以上の犠牲者がでた竜巻は200件前後記録されているが、上位10位までの犠牲者数がでた竜巻は、主に中部及び南部に集中している。
2.竜巻の種類
米国では、竜巻は陸上竜巻(トルネード:tornado)、空中竜巻(ファネル・アロフト:funnel aloft)、水上竜巻(ウォーター・スパウト:waterspout)の三つに分類されている。陸上竜巻と空中竜巻の違いは、竜巻が陸上に着地しているか否かであり、水上竜巻は竜巻が水面に着水したものである。
3.竜巻発生のしくみ
(1)基本的な発生のプロセス
- (ア)地表の温度が高いと、地表近くの空気が暖められ、上昇気流が発生する。上昇気流が上層において温度の低い空気と触れ合うと、析出した水滴または氷片により雲ができ、この雲が発達し積乱雲(積雲)となる。これが竜巻発生の第一条件である。
- (イ)発達した積乱雲の中では、激しい上昇気流が生じており、下層では上昇気流へ周囲の空気が吸い込まれる。空気は地球の自転にあわせ回っているため、上昇気流に吸い込まれると、空気は渦状となり上昇し、上昇するにつれて渦の速度が速くなる。渦は地球の自転の影響を受けて発達するため、北半球では反時計回りに、また、南半球では時計回りに回転する。
- (ウ)渦巻きの上昇気流ができると、遠心力で中心部は気圧が低くなり、周りから空気が入り込んでいく。空気は気圧の低い中心部に近づくにつれ、膨張し冷やされる。この結果、地表と積乱雲の間に雲が発生し、この雲は渦巻きながら上昇していく。このような雲はロート雲と呼ばれている。
- (エ)渦の速度が高まりさらに発達すると、渦は次第に下部にまで発達し、下降する。下降が続くと最終的に地表に到達し、竜巻(トルネード)となる。
2)主な発生の条件
- (ア)空気の下層と上層の間の温度差が大きいことに加え、空気の擾乱が激しい場合に竜巻が発生しやすい。
- (イ)ハリケーンの到来時などは、空気の擾乱が生じているので、竜巻が発生しやすい。
- (ウ)また、山の斜面、他に、沿岸部や地表の近接地点で温度差が生じる場合(空気の気温が高くなる砂地の近くに空気の気温が比較的低い牧草地がある場合など)も、空気の擾乱が激しくなることがあり、竜巻が起こりやすい。
4.竜巻が米国の中部及び南部で発生しやすい理由
ジェット・ストリームが米国を西から東に横切る際、米国の中央で、南方に蛇行する傾向がある。その場合、北極の冷たい気団と南方の暖かい気団の境目では、上記3(2)(ア)の条件が整いやすく、そのため竜巻の発生が多くなる。
5.竜巻の現象
5 竜巻の現象
(1)付随現象
(ア)押しかかるような黒い雲の大きな塊が生じる。
(イ)初期の段階では雨は降らず日照が見られることすらある。
(ウ)突然に風が強くなる。遠方に雷が生じることもある。
(エ)周囲の木の葉やごみがとつぜん激しく旋回し始める。
(2)大きさ及び風速
渦巻きの直径は100~150メートルと様々であり、渦巻きの風速は100メートル/秒を超える。移動距離は数百メートルから数百キロメートルに及ぶ。竜巻を大きさから三つに大別すると、次のような形態になる。
発生の割合* |
死者の割合* |
継続時間 |
風速 |
|
弱い竜巻 | 69% |
5%以下 |
1-10分 |
110m/秒以下 |
強い竜巻 | 29% |
30%弱 |
20分以上 |
110-205m/秒 |
激しい竜巻 | 2% |
70% |
60分以上 |
205m/秒以上 |
*記録されている竜巻のそれぞれの分類に対する比率
(注)詳細は、http://www.nssl.noaa.gov/edu/safety/tornadoguide.htmlをご参照下さい。
(3)移動方向
竜巻はどちらの方向にでも移動するが、次のような一般的な傾向も見られる。
- (ア)米国の竜巻は、南西から北東に向け移動することが多い。
- (イ)不連続線に沿って進む傾向がある。
- (ウ)積乱雲の境目に沿って進む傾向がある。
(4)竜巻の起きる時間帯
竜巻は一日中いつでも起き得るが、一般的な傾向としては、午後3~9時の間に起きやすい。
6.竜巻の発生しやすい季節
竜巻はどの季節でも起こりえるがジェット・ストリームが米国中央で南方に蛇行することにより北極の冷たい気団が南方の暖かい気団とぶつかり、空気の下層と上層の温度の格差が広がる季節に発生しやすい。南部は3~5月に至る時期に発生しやすく、北部では夏がピークとなる。
8.過去の発生例(犠牲者数が上位10位までのもの)
発生日時 | 発生州 | 犠牲者 |
1925年3月18日 | ミズーリ、イリノイ、インディアナ | 695 |
1840年5月07日 | ミシシッピ | 317 |
1896年5月27日 | ミズーリ、イリノイ | 255 |
1936年4月05日 | ミシシッピ | 216 |
1936年4月06日 | ジョージア | 203 |
1947年4月09日 | オクラホマ | 181 |
2011年5月22日 | ミズーリ | 161 |
1908年4月24日 | ルイジアナ、ミシシッピ | 143 |
1899年6月12日 | ウィスコンシン | 117 |
1953年6月08日 | ミシガン | 115 |